1月14日

生きているって

奇跡なんだよ

 

離したくないって

必死に握りしめていても

 

否応もなく

手のひらからすり抜けて

無くなってしまう

 

そんな不安定なモノを

抱えているのに

 

毎日の普通が

当たり前に続くと思っていて

 

失いそうな時

失ってしまいそうな時

やっと気づくんだ

 

生きているって

奇跡なんだって

 

だから

大切にしてほしい

 

あなた自身を

大切にしてほしい

 

こうしている今でさえ

奇跡なんだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月30日

わたしがいるフロアも

新年を迎える準備をしている

 

ナースステーションのカウンターに

供えられた小さな鏡餅

妙に呑気で

かわいい

 

少し前までは

クリスマスツリーを飾っていたロビーも

こざっぱりしたと

おとうさんが言う

 

午前の外来で

本年の診察も終わり

 

この大きな建物も

少しの間だけ

眠りにつく

 

最近

体調の良い時には

残念だったけど

クリスマスには

間に合わなかった

心ばかりのプレゼントに添える

お手紙を書いている

 

大好きなヒト達に

ありがとうを伝えたくて

あふれ出れる言葉や文字を

綴るのだけれど

 

ちゃんと伝わるのかが不安で

勝手に落ち込んでいた

 

そんな時

かなでが

"星の王子さま"の一節

 

「きみが星空を見あげると、

 そのどれかひとつに

 ぼくが住んでるから、

 そのどれかひとつで

 ぼくが笑ってるから、

 きみには星という星が、

 ぜんぶ笑ってるみたいになるっていうこと。

 きみには、

 笑う星々をあげるんだ!」

 

をそらで言って

 

あのね

みおちゃんの文章が

分かりやすかろうが

難解だろうが

 

それを手にした方々は

きっと

「みおちゃんらしい」って思うよ

 

きっと

どの文字もね

みおちゃんなんだよ

 

そう言われて

わたしは

勇気づけられたのと同時に

いもうとが

愛おしくて仕方なかった

 

「とても簡単なことだ。

   ものごとはね、

   心で見なくてはよく見えない。

   いちばんたいせつなことは、

   目に見えない。」

 

サン=テグジュペリさん

いもうとの方が

わたしより

あなたの伝えたかった真意に

気づいていたようです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月16日

最近

幼い頃の夢をよく見る

 

どこかはわからないのに

何となく

懐かしい場所で

 

かなでとふたりで

かわいいシールと

キャンディーの包紙を

交換したり

 

きれいな

おはじきやビー玉を

分け合い

遊んでいる

 

目が覚めると

いつもの

無機質な天井が見えて

なんだか

がっかりする

 

かなでは

また

お腹が大きくなった

 

女の子だと聴いて

うれしくなる

 

男の子が

嫌なわけじゃなくて

 

わたしのものを

あげるコトができるのが

うれしい

 

小物やアクセサリーは

使ってくれるはず

 

ただ

ホントは

わたしの手から譲りたい

 

"気持ちは大事だ"と

かわいいギフトをくれた

配信者さんは言う

 

でも

やっぱり"気持ち"だけじゃ

ダメみたいだ

 

ペースメーカーのおかげで

急に苦しくなったり

気を失うことは

なくなったけど

 

ペースメーカーを使って

やっと歩けるくらい

限界にきてるらしい

 

今の状態を示す数値は

ウソはつかない

 

かなでが

相変わらず来てくれて

わたしのお世話をしてくれる

 

お部屋のシャワーを使って

わたしの身体を

洗ってくれる

 

DIORの甘い香りが

うれしい

 

姪っ子の名前は

相変わらず

教えてくれないけど

 

かなでから

偽りない

愛を感じる

 

"わたしは

もらってばかりだね"

 

そう言うと

 

「みおちゃんは

むしろ、あげてばかりだ」と

 

呆れられる

 

ふたりで

頂いたこんぺいとうを

分ける

 

口の中で

甘く溶ける"星のかけら"を

楽しみながら

 

やはり

わたしは

もらってばかりだなって

思う

 

ひとは

終わりが近くなると

 

それまで

何の未練もないと

思っていたのに

 

もう少し

 

もう少しって

思う生き物らしい

 

お薬のせいもあり

眠る時間が長くなった

 

その

眠りに落ちるときが

怖いと感じるのも

 

わたしに

たくさんの

手放したくないものがある

証拠のような気がして

うれしい

 

また

夜が来る

 

 

 

 

11月22日

おかあさんから

手紙が来た

 

カフェでの事を

謝る内容だった

 

でも

わたしの中に

入ってこない

 

意味は解るのだけれど

まるで

文字が

記号のようで

 

パラパラと

便箋から

溢れてゆき

真っ白になっていくみたいだ

 

バースデーで

一時帰宅して以来

できるだけ

独りにして欲しいと

わがままを言った

 

かなでは

理由を聴こうとする

 

でも

おとうさんは理解してくれ

面会を控えてくれた

 

泣きたかった

 

おかげで

気の済むまで

泣いた

 

日曜日の午後

 

かなでは

久しぶりに

お世話をしに来てくれた

 

ちょっぴり

お腹が大きくなった気がする

 

名前を既に決めてるらしい

 

尋ねても

教えてくれない

 

独りにして欲しい

理由を教えなかった

腹いせらしい

 

そんな彼女は

少し雰囲気が変わった気がする

 

ルーベンスの聖母のように

 

妊婦には

ふとしたときに

穏やかさの内の

力強さを感じる

 

慈愛とは

きっと

こういうものなのかもと

思う

 

母親になる妹に

わたしが子供の頃から

求めていた愛が宿っている

 

そう確信したわたしは

かなでが帰ってから

公正証書

サインと押印をした

 

わたしと妹の名を付けてくれた

おじいちゃまから

譲り受けたものを

お腹の子に

引き継ぐために

 

窓の外は

木枯らしが

容赦なく吹きつけ

 

鮮やかだった葉から

生気を奪い去り

冬の到来を知らせる

 

今日から

大通公園

ミュンヘン・クリスマス市が

通常開催されたらしい

 

おとうさんが来たら

クリスマスカードを

ねだってみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11月4日

自分で希望した

一時帰宅の日を迎えた

 

火曜日に入れた

ペースメーカーは

思いのほか

良い仕事をしてくれていて

 

心臓の働きを

底上げしてくれる

 

でも

ドクターからは

午前の回診で

釘を刺された

 

少し前から

体調の良い日は

少しずつ

お手紙を書いている

 

直接会って

自分の言葉で

感謝を伝えてたいけど

 

そうするには

時間が足りない上

よしんば

そうする事が

出来たとしても

 

わたしは

きっと

感情に負けて

泣いてしまうだろうから

 

だから

文字で

文章で

したためる方が

わたしらしいと思う

 

きっと

その方がいい

 

久しぶりに

配信にコメントした

 

"こんな世界の中で

知り合ったけど

大切に思う"

 

そう言われて

うれしかった

 

思いのほか

迎えが遅いので

何かあったのか

少し心配していたら

 

ホントに

驚く事が起きた

 

おとうさんの後に

病室に入ってきたのは

ずっと会ってなかった

おかあさんだった

 

わたしの名前を呼ぶ

その声と身体は

震えている

 

病室を出る時

手をつないだ

 

いつ振りだろう

 

いや

おかあさんと

手をつないだ

記憶がない

 

その手の温度が

伝わってくる

 

いつも通る道じゃないと思ったら

行きつけの喫茶店に着いた

 

後で迎えに来ると

言い残して

 

おかあさんと

ふたりきりになった

 

いろいろ話した

 

ホントに

いろいろと

 

おかあさんも

不器用で

真っ直ぐ過ぎる

ヒトだったってコト

少し解ることができた

 

解らないままでいるより

ずっと良い

 

余計に

傷つくコトがあったとしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月27日

今日から月曜まで

一時帰宅していいと

ドクターに言われた

 

わたしがお願いしたのは

再来週なのに

 

どうやら

おとうさんから

申し入れがあったらしい

 

前回の一時帰宅の後の事もあるから

再来週だって難しいと思っていたので

すごくうれしかった

 

タクシーで帰るとき

また

あの道から

歩いて帰りたいと

ねだってみた

 

今回は

車椅子と一緒に

おとうさんと散歩しなから

帰る

 

雪虫が大発生していて

キモチ悪かったけど

色づく葉を眺めながら

ゆっくり帰った

 

どうして今日からの

一時帰宅を届け出たのか

尋ねたい

どうも腑に落ちない

 

おとうさんが

ペースメーカーのお話しを

し始める

 

ドクターにも

以前から勧められていた

 

完治とか

延命とかには繋がらないけど

そうした方が

苦しさが

緩和されるそうだ

 

それでも

わたしは

ずっと断ってきた

 

そういうのは

先がある人が

するべきと思ったから

 

おとうさんの顔を見上げてみた

見たことない顔をしていた

 

わたしの頑固が

おとうさんを困らせる

 

見てるの

きっと辛いよね

それでなくても

親不孝なのに

 

帰宅までの道のり

その問いに答えなかったけど

 

おとうさんの顔を見て

受け入れる事にした

 

あ〜ずるいなぁ

 

おとうさんの顔を

見上げながら

秋のしるしに囲まれて

散歩なんて

 

言うことを

聞かないわけに

いかないじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月22日

窓から見える山には

白いものが見える

 

歩く人波の装いでも

季節の変わり目が

早まっているのがわかる

 

秋から冬へ

時間はとうとうと流れる

 

あんまり

何度も聞くから

ドクターも

再来週

一時帰宅を許してくれた

 

あんなコトに

なったばかりなのにと

 

少し呆れたのかもしれない

 

処方してくれたお薬のおかげで

浮腫まなくなった

 

ちょっとうれしい

 

かなでが

柿を買ってきて

食べやすく切ってくれる

 

柿の実なのに"オレンジ色"

 

でも

この色は"本家"の"それ"より

わたしは好きだ

 

ちょっとうれしい

 

そっか

 

わたしが

少しだけ見る角度を

変えさえすれば

 

こんなに周りにある

"うれしい"を

見つけられたんだ

 

時間がないコトの

落胆より

時間があるうちに

気づけたコトが

うれしかった

 

窓から見える山には

白いものだけじゃなく

赤も黄も

緑も見える

 

"おウチはどっち?"と

かなでに尋ねられた

 

わたしは

高いマンションに指差して

教える

 

見えないコトを残念がる

彼女を見て

笑ってしまう

 

ちょっと角度を変えたら

見えるかもよって

 

ココロの中で

つぶやいた