生きているって
奇跡なんだよ
離したくないって
必死に握りしめていても
否応もなく
手のひらからすり抜けて
無くなってしまう
そんな不安定なモノを
抱えているのに
毎日の普通が
当たり前に続くと思っていて
失いそうな時
失ってしまいそうな時
やっと気づくんだ
生きているって
奇跡なんだって
だから
大切にしてほしい
あなた自身を
大切にしてほしい
こうしている今でさえ
奇跡なんだから
生きているって
奇跡なんだよ
離したくないって
必死に握りしめていても
否応もなく
手のひらからすり抜けて
無くなってしまう
そんな不安定なモノを
抱えているのに
毎日の普通が
当たり前に続くと思っていて
失いそうな時
失ってしまいそうな時
やっと気づくんだ
生きているって
奇跡なんだって
だから
大切にしてほしい
あなた自身を
大切にしてほしい
こうしている今でさえ
奇跡なんだから
わたしがいるフロアも
新年を迎える準備をしている
ナースステーションのカウンターに
供えられた小さな鏡餅が
妙に呑気で
かわいい
少し前までは
クリスマスツリーを飾っていたロビーも
こざっぱりしたと
おとうさんが言う
午前の外来で
本年の診察も終わり
この大きな建物も
少しの間だけ
眠りにつく
最近
体調の良い時には
残念だったけど
クリスマスには
間に合わなかった
心ばかりのプレゼントに添える
お手紙を書いている
大好きなヒト達に
ありがとうを伝えたくて
あふれ出れる言葉や文字を
綴るのだけれど
ちゃんと伝わるのかが不安で
勝手に落ち込んでいた
そんな時
かなでが
"星の王子さま"の一節
「きみが星空を見あげると、
そのどれかひとつに
ぼくが住んでるから、
そのどれかひとつで
ぼくが笑ってるから、
きみには星という星が、
ぜんぶ笑ってるみたいになるっていうこと。
きみには、
笑う星々をあげるんだ!」
をそらで言って
あのね
みおちゃんの文章が
分かりやすかろうが
難解だろうが
それを手にした方々は
きっと
「みおちゃんらしい」って思うよ
きっと
どの文字もね
みおちゃんなんだよ
そう言われて
わたしは
勇気づけられたのと同時に
いもうとが
愛おしくて仕方なかった
「とても簡単なことだ。
ものごとはね、
心で見なくてはよく見えない。
いちばんたいせつなことは、
目に見えない。」
いもうとの方が
わたしより
あなたの伝えたかった真意に
気づいていたようです
最近
幼い頃の夢をよく見る
どこかはわからないのに
何となく
懐かしい場所で
かなでとふたりで
かわいいシールと
キャンディーの包紙を
交換したり
きれいな
おはじきやビー玉を
分け合い
遊んでいる
目が覚めると
いつもの
無機質な天井が見えて
なんだか
がっかりする
かなでは
また
お腹が大きくなった
女の子だと聴いて
うれしくなる
男の子が
嫌なわけじゃなくて
わたしのものを
あげるコトができるのが
うれしい
小物やアクセサリーは
使ってくれるはず
ただ
ホントは
わたしの手から譲りたい
"気持ちは大事だ"と
かわいいギフトをくれた
配信者さんは言う
でも
やっぱり"気持ち"だけじゃ
ダメみたいだ
ペースメーカーのおかげで
急に苦しくなったり
気を失うことは
なくなったけど
ペースメーカーを使って
やっと歩けるくらい
限界にきてるらしい
今の状態を示す数値は
ウソはつかない
かなでが
相変わらず来てくれて
わたしのお世話をしてくれる
お部屋のシャワーを使って
わたしの身体を
洗ってくれる
DIORの甘い香りが
うれしい
姪っ子の名前は
相変わらず
教えてくれないけど
かなでから
偽りない
愛を感じる
"わたしは
もらってばかりだね"
そう言うと
「みおちゃんは
むしろ、あげてばかりだ」と
呆れられる
ふたりで
頂いたこんぺいとうを
分ける
口の中で
甘く溶ける"星のかけら"を
楽しみながら
やはり
わたしは
もらってばかりだなって
思う
ひとは
終わりが近くなると
それまで
何の未練もないと
思っていたのに
もう少し
もう少しって
思う生き物らしい
お薬のせいもあり
眠る時間が長くなった
その
眠りに落ちるときが
怖いと感じるのも
わたしに
たくさんの
手放したくないものがある
証拠のような気がして
うれしい
また
夜が来る
おかあさんから
手紙が来た
カフェでの事を
謝る内容だった
でも
わたしの中に
入ってこない
意味は解るのだけれど
まるで
文字が
記号のようで
パラパラと
便箋から
溢れてゆき
真っ白になっていくみたいだ
バースデーで
一時帰宅して以来
できるだけ
独りにして欲しいと
わがままを言った
かなでは
理由を聴こうとする
でも
おとうさんは理解してくれ
面会を控えてくれた
泣きたかった
おかげで
気の済むまで
泣いた
日曜日の午後
かなでは
久しぶりに
お世話をしに来てくれた
ちょっぴり
お腹が大きくなった気がする
名前を既に決めてるらしい
尋ねても
教えてくれない
独りにして欲しい
理由を教えなかった
腹いせらしい
そんな彼女は
少し雰囲気が変わった気がする
ルーベンスの聖母のように
妊婦には
ふとしたときに
穏やかさの内の
力強さを感じる
慈愛とは
きっと
こういうものなのかもと
思う
母親になる妹に
わたしが子供の頃から
求めていた愛が宿っている
そう確信したわたしは
かなでが帰ってから
公正証書に
サインと押印をした
わたしと妹の名を付けてくれた
おじいちゃまから
譲り受けたものを
お腹の子に
引き継ぐために
窓の外は
木枯らしが
容赦なく吹きつけ
鮮やかだった葉から
生気を奪い去り
冬の到来を知らせる
今日から
大通公園で
ミュンヘン・クリスマス市が
通常開催されたらしい
次
おとうさんが来たら
クリスマスカードを
ねだってみよう
自分で希望した
一時帰宅の日を迎えた
火曜日に入れた
ペースメーカーは
思いのほか
良い仕事をしてくれていて
心臓の働きを
底上げしてくれる
でも
ドクターからは
午前の回診で
釘を刺された
少し前から
体調の良い日は
少しずつ
お手紙を書いている
直接会って
自分の言葉で
感謝を伝えてたいけど
そうするには
時間が足りない上
よしんば
そうする事が
出来たとしても
わたしは
きっと
感情に負けて
泣いてしまうだろうから
だから
文字で
文章で
したためる方が
わたしらしいと思う
きっと
その方がいい
久しぶりに
配信にコメントした
"こんな世界の中で
知り合ったけど
大切に思う"
そう言われて
うれしかった
思いのほか
迎えが遅いので
何かあったのか
少し心配していたら
ホントに
驚く事が起きた
おとうさんの後に
病室に入ってきたのは
ずっと会ってなかった
おかあさんだった
わたしの名前を呼ぶ
その声と身体は
震えている
病室を出る時
手をつないだ
いつ振りだろう
いや
おかあさんと
手をつないだ
記憶がない
その手の温度が
伝わってくる
いつも通る道じゃないと思ったら
行きつけの喫茶店に着いた
後で迎えに来ると
言い残して
おかあさんと
ふたりきりになった
いろいろ話した
ホントに
いろいろと
おかあさんも
不器用で
真っ直ぐ過ぎる
ヒトだったってコト
少し解ることができた
解らないままでいるより
ずっと良い
余計に
傷つくコトがあったとしても
今日から月曜まで
一時帰宅していいと
ドクターに言われた
わたしがお願いしたのは
再来週なのに
どうやら
おとうさんから
申し入れがあったらしい
前回の一時帰宅の後の事もあるから
再来週だって難しいと思っていたので
すごくうれしかった
タクシーで帰るとき
また
あの道から
歩いて帰りたいと
ねだってみた
今回は
車椅子と一緒に
おとうさんと散歩しなから
帰る
雪虫が大発生していて
キモチ悪かったけど
色づく葉を眺めながら
ゆっくり帰った
どうして今日からの
一時帰宅を届け出たのか
尋ねたい
どうも腑に落ちない
おとうさんが
ペースメーカーのお話しを
し始める
ドクターにも
以前から勧められていた
完治とか
延命とかには繋がらないけど
そうした方が
苦しさが
緩和されるそうだ
それでも
わたしは
ずっと断ってきた
そういうのは
先がある人が
するべきと思ったから
おとうさんの顔を見上げてみた
見たことない顔をしていた
わたしの頑固が
おとうさんを困らせる
見てるの
きっと辛いよね
それでなくても
親不孝なのに
帰宅までの道のり
その問いに答えなかったけど
おとうさんの顔を見て
受け入れる事にした
あ〜ずるいなぁ
おとうさんの顔を
見上げながら
秋のしるしに囲まれて
散歩なんて
言うことを
聞かないわけに
いかないじゃない
窓から見える山には
白いものが見える
歩く人波の装いでも
季節の変わり目が
早まっているのがわかる
秋から冬へ
時間はとうとうと流れる
あんまり
何度も聞くから
ドクターも
再来週
一時帰宅を許してくれた
あんなコトに
なったばかりなのにと
少し呆れたのかもしれない
処方してくれたお薬のおかげで
浮腫まなくなった
ちょっとうれしい
かなでが
柿を買ってきて
食べやすく切ってくれる
柿の実なのに"オレンジ色"
でも
この色は"本家"の"それ"より
わたしは好きだ
ちょっとうれしい
そっか
わたしが
少しだけ見る角度を
変えさえすれば
こんなに周りにある
"うれしい"を
見つけられたんだ
時間がないコトの
落胆より
時間があるうちに
気づけたコトが
うれしかった
窓から見える山には
白いものだけじゃなく
赤も黄も
緑も見える
"おウチはどっち?"と
かなでに尋ねられた
わたしは
高いマンションに指差して
教える
見えないコトを残念がる
彼女を見て
笑ってしまう
ちょっと角度を変えたら
見えるかもよって
ココロの中で
つぶやいた