桜の葉

小さな鏡もちが

飾ってあった場所には

 

かわいい

お内裏さまとお雛さまが

座っている

 

微かに

"ひな祭り"の歌が流れ

寒々しい病棟も

ほんの少しだけ

ぬくもる気がする

 

3月だというのに

札幌は雪景色に戻った

 

ベッドから見える

小さな空からも

その様子が想像できる

 

半月ほど

季節が遡ったように感じるから

寒の戻りとよく言うけど

 

どうせなら

その分

ホントに時間も遡って欲しい

 

昨夜

ようやく

お世話になったヒトへ

お手紙を書き上げた

 

元々わたしは

お手紙を書くのが好きだし

得意だと思っている

 

たった10数通を仕上げるのに

こんなに掛かるなんて

 

身体が保たなくて

1通に

何度も何度も

筆を入れた

 

最後の1通が書き終えたのは

日をまたぐ少し前だった

 

とても良いタイミングで

あの子の配信を観る

 

3月生まれのあの子を

たくさんの人が

応援している

 

すごく嬉しい

そして

誇らしかった

 

もう大丈夫

 

この先も

きっと大丈夫だ

 

そう確信して

眠りに着く

 

目が覚めたのは7:30頃

3メートル先の洗面台まで

歩行器を使い

歯を磨き

洗顔

髪にブラシをかけて

アゴムで束ねる

 

今の体力では

ここまでがやっと

 

でも

自分のことを

自分でできることは

うれしい

 

お昼前に

おとうさんが

桜餅をおみやげに

ひとりで病室に来た

 

葉の香りをまとう

道明寺粉の桜餅

 

"桜の花は見られない"

 

ドクターに言われたコトを

思い出しながら

 

"桜の葉は間に合ったね"と

思わず

口から出てしまったけど

 

なんだか可笑しくて

笑ってしまった

 

そんなわたしを見て

おとうさんは

不思議そうだ

 

静かな午後

 

久しぶりに

可愛がってくれた

歳上の配信者さんの枠に

顔を出してみる

 

これまでと変わらず

わたしを扱ってくれる彼女が

心地良かった

 

何の変哲もないこの日

 

わたしはしあわせだ