カーテン越しでも
日差しの強さを感じる
"もう"じゃなくて
"本当に"
春なんだね
今日
退院する"かなで"は
わたしの病室を訪ねてくれた
はじめて
自分の腕で
奏音を抱っこした
この子の温もりや匂い
なんて幸せなんだろう
そして
ほんの少し
寂しい気持ちになる
かなでが病室を出てすぐに
ドクターの回診
「今年の"さくら"を
意地でも見て
先生の診断を覆してやる」と
意地悪をしてみる
『ボクはヤブ医者だからね』と
話を合わせてくださるドクターに
ココロの中で感謝した
昼下がり
出会った頃
柑橘類の名前だったあの子が
ずっと
苦しんでいたコトを
DMで打ち明けてくれた
わたしたちは
どんなに賢明に生きようとしても
道を間違えるし
人を傷つける
そのコトに慣れず
後悔し
自身を戒めるヒトと
仲良しになれて
良かったと思う
夕方
先日
おとうさんが
職場のデスクとロッカーを
整理に行った際
借りていた膝掛けを
返しそびれたと
同じ部署の子が
届けに来てくれた
DIORの紙袋に入ったそれを
渡そうとするその子は
目にいっぱい
涙を留めている
"メイク落ちちゃうよ?"って
笑いかけたら
あっという間に
洪水になった
わたしの膝の上に顔を沈め
声を殺すこの子に
これまで
ずいぶん手を焼いたなぁと
思いながら
泣き止むまで頭を撫でた
"こんなときに
何てお話しすれば良いか"と
泣き腫らした目元でモジモジ言うから
つい笑ってしまった
それはそうだよ
わたしだって
あなたの立場だったら
なんて言っていいか悩む
それ以前に
借りたものは
とっとと返してる
そう思うと
余計に面白くなってしまった
わたしの笑うのを
バツ悪そうにしている
この子に
"良かったら
この膝掛けを
もらってくれない?"と
紙袋を渡してみる
"形見にします"って言われた時
ストレート過ぎて
妙に清々しく思った
変に慰められるより
ずっといい
メイクが落ち
まぶたが腫れるこの子に
早くおウチに帰られるよう
タクシーチケットを渡し
"今日はありがとう
でも
もう来ちゃダメだよ"
と言って
病室から送り出した