つよがり

夢を見たんだ

 

手作りした夕食を

仲良しになってくれたヒト達と囲んで

おしゃべりしながら

おいしいねって

食べてる

 

それから

 

手放してしまったはずの

グランドピアノを

弾いて

 

ヴァイオリンや

ギターや

ウクレレの音を合わせたり

 

歌を歌ったり

 

お揃いの

ジュエリーや

お洋服を着たり

 

絵を観たり

描いたり

 

お気に入りの

ティーカップ

お茶をしたり

 

大切な本や映画について

話したり

 

楽しい夢だった

 

目を覚ますと

 

窓に当たる雨粒の

空の鈍色を

一層滲ませた様子が

 

現実と真実に

わたしを引き戻す

 

もう充分泣いた

もう泣きたくないな

 

でもさ

人前で

 

特に

おとうさんの前では

絶対泣きたくないから

 

ひとりの時は

泣いてもいいよね?

 

今日は午後から

おとうさんが来て

髪を洗ってくれる

 

2日に1度は

ナースさんが

身体を拭いてくれる

 

回診のドクターには

意地悪を言う

 

泣かないわたしは

きっと

みんなの中のわたしだもの

 

最後まで

つよがりで

意地っ張りな

わたしでいたいから

 

ほんの少しだけだから

泣いていいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月7日

カーテン越しでも

日差しの強さを感じる

 

"もう"じゃなくて

"本当に"

春なんだね

 

今日

退院する"かなで"は

わたしの病室を訪ねてくれた

 

はじめて

自分の腕で

奏音を抱っこした

 

この子の温もりや匂い

なんて幸せなんだろう

 

そして

ほんの少し

寂しい気持ちになる

 

かなでが病室を出てすぐに

ドクターの回診

 

「今年の"さくら"を

    意地でも見て

    先生の診断を覆してやる」と

 

意地悪をしてみる

 

『ボクはヤブ医者だからね』と

話を合わせてくださるドクターに

ココロの中で感謝した

 

昼下がり

 

出会った頃

柑橘類の名前だったあの子が

ずっと

苦しんでいたコトを

DMで打ち明けてくれた

 

わたしたちは

どんなに賢明に生きようとしても

道を間違えるし

人を傷つける

 

そのコトに慣れず

後悔し

自身を戒めるヒトと

仲良しになれて

良かったと思う

 

夕方

 

先日

おとうさんが

職場のデスクとロッカーを

整理に行った際

 

借りていた膝掛けを

返しそびれたと

同じ部署の子が

届けに来てくれた

 

DIORの紙袋に入ったそれを

渡そうとするその子は

目にいっぱい

涙を留めている

 

"メイク落ちちゃうよ?"って

笑いかけたら

あっという間に

洪水になった

 

わたしの膝の上に顔を沈め

声を殺すこの子に

これまで

ずいぶん手を焼いたなぁと

思いながら

 

泣き止むまで頭を撫でた

 

"こんなときに

  何てお話しすれば良いか"と

 

泣き腫らした目元でモジモジ言うから

つい笑ってしまった

 

それはそうだよ

 

わたしだって

あなたの立場だったら

なんて言っていいか悩む

 

それ以前に

借りたものは

とっとと返してる

 

そう思うと

余計に面白くなってしまった

 

わたしの笑うのを

バツ悪そうにしている

この子に

 

"良かったら

 この膝掛けを

 もらってくれない?"と

紙袋を渡してみる

 

"形見にします"って言われた時

ストレート過ぎて

妙に清々しく思った

 

変に慰められるより

ずっといい

 

メイクが落ち

まぶたが腫れるこの子に

早くおウチに帰られるよう

タクシーチケットを渡し

 

"今日はありがとう

でも

もう来ちゃダメだよ"

 

と言って

病室から送り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏音

"昼と夜の長さか等しくなる日"

 

2024年の"その日"に

あなたはうまれたんだ

 

そして

さっそく

プレゼントをくれたの

 

わたしを

"おばちゃん"にするという

 

わたしにしか受け取れない

プレゼントを

 

あなたがうまれる前の日

 

"北の街"は

冬将軍の

悪あがきのような吹雪で

春が遠のいたかのように

見えたものだから

 

あなたのおかあさんは

大きなお腹を抱えて

"いっぱいいっぱい"な顔で

わたしに会いにきた

 

どんな顔かって言うとね

 

宿題が間に合わなくなりそうで

今にも泣き出しそうな

困った顔

 

つい笑ってしまったの

幼いころを思い出してね

 

それで

少し怒らせてしまった

 

でも

すぐにふたりして

 

"なんだか可笑しいね"って

笑い合ったのよ

 

安心したのか

 

来た時とは正反対に

穏やかな表情になって

 

あなたが

この世にうまれる準備をしに

おウチに帰った

 

CHANELの"Chance"が

ほのかに芳る

わたしのハンカチを手にして

 

この香りがすると

わたしが一緒に居るみたいで

落ち着くんだって

 

少しだけ

臆病なところがあるの

 

でもね

いざとなったら

すごく

勇敢ヒトなのよ

 

だって

わたしに

意地悪をするヒト達や

恐ろしい

野良犬を追い散らすんだもの

 

あなたがうまれる

その日

 

きのうとは

打って変わって

 

穏やかで

暖かな日だった

 

あなたの

おじいちゃまは

 

あなたの

おとうさんより

 

ずっと

ソワソワしていた

 

同じ病院の

棟違い

わたしがいる個室で

 

ずっと

ウロウロしていた

 

わたしを心配して

離れようとしないけど

 

あなたと

あなたのおかあさんのコトも

心配で

すごくそばに行きたかったんだと思う

 

だから

 

'わたしの代わりに迎えに行って"って

お願いしたんだ

 

だって

あなたに会いたくて

 

ホントは

わたしも行きたかったんだもの

 

あなたに会うために

胸にある

"時計の針"が止まらないように

 

わたしも

がんばったんだよ

 

"午前9時20分にうまれました"

 

仲良くしてくれた

ナースから聞いた時は

どんなに

うれしかったか

 

おかあさんは

それまで

誰にも

ずっと

教えてなかった

あなたのお名前を

 

うまれてすぐに

呼んだんだって

 

"奏音"って

 

わたしと

あなたのおかあさんの名前は

ひいおじいちゃまから

つけていただいたのだけれど

 

それは

うまれて初めていただいた

"お手紙"のような

 

願いと祈りが込められた

"贈り物"

 

あなたのお名前も

 

わたしたち

ふたりの名前から

 

ひと文字ずつ取り

結び合わせるコトで

 

"ふたり分"の

"願い"と"祈り"と"愛"を

 

おかあさんは

"初めてのお手紙"として

贈ったんだよ

 

"昼と夜の長さか等しくなる日"

 

実は

"昼"の方が少しだけ長い"日"だから

 

この先の

あなたの人生は

happyもunhappyも

"等しく"あるのではなく

 

きっと

"明るくて"

"暖かい"コトの方が多いって

 

わたしは確信しているの

 

どうか

ずっとずっと

健やかでありますように

 

親愛なる"わたしの姪"

奏音へ

 

愛を込めて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたの中のあなた

デブラ・フレイジャーさんの

「あなたがうまれたひ」という絵本を

近所の本屋さんで見つけたのは

14歳の秋だった

 

その頃のわたしといえば

 

"いい子ぶった変わり者"と

 

聞こえるように

嫌味を言われるほど

周りと馴染まない子だった

 

クラスの中で形成される

ガールズ・コミュニティの

どこにも属さないし

 

嫌がらせを受けても

すましていたから

余計に気持ちを

逆なでしたのかもしれない

 

母親にさえ

疎まれるんだから

 

他人なら

なおのことだって

妙に納得していた

 

わたしはただ

 

まるで"規則"のように

 

おもしろくなくても

笑って

行きたくないのに

出かけ

嫌いじゃないのに

避ける

 

"なかよし"という

まるで軍隊みたいな

仲間意識に縛られたくなかった

 

その反面

周りのヒトを

不快にし

"普通"に合わせられない

 

そんな自分が

ひどく欠陥だらけで

いびつに感じ

 

ある意味

わたしを疎み

嫌うヒト達以上に

 

わたしは

わたし自身が嫌いだった

 

絵本をめくる指が止まる

 

"太陽も月も地球も人びともみんな

あなたが生まれるのを待っていた"

 

本当なのだろうか?

 

絵本の代金を払い

本屋さんを出たわたしは

モヤモヤしながら

帰宅した

 

着替えて

ピアノの部屋に行くと

おばあちゃまがソファに座っていて

 

横に座るように促す

 

そして

「なにがあったのか聞かせて」と

静かにおっしゃる

 

頭の中で巡る"モヤモヤ"を

堰を切ったように

打ち明けた

 

そして

いっぱい

泣いた

 

それから

ゆっくりと

こうおっしゃった

 

「70億以上のヒトが住むこの星で

   みおが出会えるヒトは

   きっと1万人くらいで

 

   そのうちの

   顔見知りが

   1割もいないくらいで

 

   知り合いは

   更に少なくって…

 

   そう考えたら

   一体どのくらいのヒトが

   本当に"なかよし"だと思う?」

 

『わからない』

そう答えると

 

「あなたは正しく答えました

 この先のあなたが

 どう生きたかによって

 出会えるヒトは変わるのだから」

 

「そして

   その時のあなたが

   心地良く思い

   その時のあなたを

   快く思うヒト達は

   出会う前の"あなた"さえ

   きっと

   受け入れてくれる」

 

「この絵本の

 

   "太陽も月も地球も人びともみんな

    あなたが生まれるのを待っていた"は

 

 そんな友達が

    "あなた"の存在について

    思う気持ちではないのかしら」

 

 「あなたはあなたのまま

     正直に生きていいのですよ」

 

ココロの"モヤモヤ"は

その言葉で涙に溶けだし

流れていった

 

"昔の自分を嫌いだ"と言う

あの子に伝えたい

 

あなたを大好きになったわたしは

今のあなたを形作る

昔のあなたのコトも

大好きなんだというコト

 

今まで生きてきて

この先も生きていく

 

あなたを

誇りに思っているコト

 

 

 

 

 

 

桜の葉

小さな鏡もちが

飾ってあった場所には

 

かわいい

お内裏さまとお雛さまが

座っている

 

微かに

"ひな祭り"の歌が流れ

寒々しい病棟も

ほんの少しだけ

ぬくもる気がする

 

3月だというのに

札幌は雪景色に戻った

 

ベッドから見える

小さな空からも

その様子が想像できる

 

半月ほど

季節が遡ったように感じるから

寒の戻りとよく言うけど

 

どうせなら

その分

ホントに時間も遡って欲しい

 

昨夜

ようやく

お世話になったヒトへ

お手紙を書き上げた

 

元々わたしは

お手紙を書くのが好きだし

得意だと思っている

 

たった10数通を仕上げるのに

こんなに掛かるなんて

 

身体が保たなくて

1通に

何度も何度も

筆を入れた

 

最後の1通が書き終えたのは

日をまたぐ少し前だった

 

とても良いタイミングで

あの子の配信を観る

 

3月生まれのあの子を

たくさんの人が

応援している

 

すごく嬉しい

そして

誇らしかった

 

もう大丈夫

 

この先も

きっと大丈夫だ

 

そう確信して

眠りに着く

 

目が覚めたのは7:30頃

3メートル先の洗面台まで

歩行器を使い

歯を磨き

洗顔

髪にブラシをかけて

アゴムで束ねる

 

今の体力では

ここまでがやっと

 

でも

自分のことを

自分でできることは

うれしい

 

お昼前に

おとうさんが

桜餅をおみやげに

ひとりで病室に来た

 

葉の香りをまとう

道明寺粉の桜餅

 

"桜の花は見られない"

 

ドクターに言われたコトを

思い出しながら

 

"桜の葉は間に合ったね"と

思わず

口から出てしまったけど

 

なんだか可笑しくて

笑ってしまった

 

そんなわたしを見て

おとうさんは

不思議そうだ

 

静かな午後

 

久しぶりに

可愛がってくれた

歳上の配信者さんの枠に

顔を出してみる

 

これまでと変わらず

わたしを扱ってくれる彼女が

心地良かった

 

何の変哲もないこの日

 

わたしはしあわせだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チョコレート

札幌の雪まつりが終わる日に

久しぶりの家に戻る

 

毎年

わたしの職場や

おとうさんの会社で働く方々に

チョコを手作りして

配っていて

 

おとうさんにも

"ついで"を口実に

渡していた

 

あちこちから

もらっているのに

満面の笑顔で

喜んでくれる

 

勿体ないからって

冷凍室に入れて

少しずつ

こっそりと食べてる

 

そんな様子が

おかしくて

うれしくて

 

どうしても

今年も

 

もう一度

作りたくて

渡したくて

 

かなでに手伝ってもらうからと

ドクターに

半ばごり押しで

許可をもらった

 

車椅子だったけど

スーパーマーケットで

材料探しをするのは

楽しい

 

いちごを手にした

お腹の大きい

かなでの姿を見て思う

 

ただ

毎日毎日

 

"今日は何を食べよう"とか

"このお野菜は旬だなぁ"とか

"少しくたびれた果物を

 ジャムにしよう"とか

 

そうやって

生きていけたらって

 

無いものねだりを

するあたり

 

のらねこになりたいわたしも

ヒトなんだなぁって思う

 

おウチでは

ベリーが車椅子に警戒しながらも

わたしのひざに乗り

丸くなるところを探る

 

以前より

骨々しくなった太腿は

身を預けるには

心地悪いようで

 

それでも収まろうとする

この子が愛おしかった

 

お鍋を用意して

粉ふるいを用意して

アーモンドを細かく砕いて

 

作業しながら

かなでと

何でもない会話をしながら

 

出来上がったトリュフを

3つずつ20人分を

ラッピングした

 

いつも以上に

早く帰って来たおとうさんに

ふたりで選んだ

GUCCIカフスボタン

トリュフを渡す

 

いつも通りに

笑ってくれると思ってたのに

 

くしゃくしゃな顔して

泣きながら

笑おうとするから

 

わたしも

かなでも

もらい泣きしてしまった

 

味見したトリュフが

口の中に残っていたのか

 

涙が塩辛く感じる

 

わがままな娘で

ごめんね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Les feuilles mortes

あなたが

どうして

この名前にしたのか

 

とても気になっている

 

でも

わたしは好きだよ

 

どうして

この名前にしたのか

 

わからないけど

わかる気がするんだ

 

"わたしたち似てるね"

 

あなたにそう言われたとき

ドキドキした

 

わたしも

そう思っていたから

 

今も

そう言ってくれた時のように

似てるって

思ってくれてるかな?

 

このアプリを使って

 

こうやって

自分のキモチや

 

あなたを含め

出会った人々のコトを

記すことは

 

わたしを

すごく

しあわせな気持ちにする

 

これまで

わたしって

ずっと

カラッポだって思ってたから

 

ずっと

悩んでた

 

どうして

生まれてきちゃったのかな?って

 

どんな

辞典にも

教本にも

啓発書にも

 

腑に落ちる答えがない

 

生命を

大切にしましょう

ヒトには

親切にしましょう

モノを

大事にしましょう

ウソを

ついてはいけません

 

それを書いたり

教えたりする大人たちが

その言葉とは

反対のコトをしている

 

そして

何度も

何度も

反対のコトを繰り返す

 

腑に落ちるわけがない

 

でも

本の中には

ココロに刺さる

コトバもある

 

それを見つけるコトが

カラッポな自分を

少しでも埋める方法だった

 

身体のあちこちに

不発弾が眠っていて

何かの拍子で

爆発したり

 

胸の時計の

その針が

少しずつ遅くなり

刻むペースが

鈍くなり始めた頃

 

あなたを含め

出会った人々が

 

わからなかった答えを

教えてくれたようで

うれしかった

 

大げさって

あなたは笑うかな?

 

"生きるためのレシピなんて無い"って

桜井さんは書いたけど

ホントにそうだ

 

答えなんかない

それが答え

それでいいんだ

 

でも

あなたがいる

 

わたしと似ている

あなたがいる

 

カラカラのようで

みずみずしい

矛盾だらけの

わたしとあなた

 

"わたしたち 似ているね"