5月2日

「先生はヤブ決定だね」

 

そう言うと

「バレましたね 

 内緒にしてください」と

優しく笑った

 

気温22℃

この時期の札幌に

らしくない暖かさも

地球温暖化のせいなのかな

 

「今度はライラック

    試してみる?」

 

と言ってみたけど

 

目を細めただけで

次の回診先に

行ってしまった

 

その“静けさ"が

本当は怖かった

 

数字は嘘をつかないから

 

あんなに

心に決めていたのに

わたしの弱虫が

覚悟を蝕みはじめてる

 

いつもの点滴が終わる頃

ナースが「離職票」を持ってきた

 

わたしが居た場所が

少しずつ

霞んで

薄れて

見えなくなる

そんな気がした

 

お昼頃

久しぶりに

歳上の配信者さんの枠を覗く

 

「特別扱いしないよ」のひと言が

堕ちそうなわたしの手を

「ギュッ」と掴む

そうだ

これは「わたしらしくない」

 

そう思うタイミングで

おとうさんが病室に入ってきた

今日は

髪を洗ってくれる日だ

 

いつものように支度して

ドレッサーまで

専用の車椅子で連れて行ってくれる

 

「洗い方、上手くなったね」

 

そう言うと

おとうさんは目を細めた

 

いつもは

いろんなことを話してくれるのに

静かな時間だった

 

トリートメントした後

タオルドライして

ドライヤーで乾かし

ブラシで髪を解いてくれた

 

その空気に合わせて

わたしも

口を閉じ

カーテンから透ける陽の光を

静かに見ていた

 

少しして

おとうさんはわたしの頭を撫でて

こう言ったんだ

 

「もう おウチに帰ろうか みお」

 

唐突さに

ボーっとしてしまったけど

わたしは

笑って言った

 

「何言ってるの

 わたし ここに居なきゃ」

 

きっと

この時のおとうさんの顔

わたし

忘れないと思うよ

 

ねぇ

おとうさん

 

わたしは

どんな顔してましたか?

 

ちゃんと

笑ってましたか?