ルーベンス⑤

わたしは

ボルドーの毛糸で

マフラーを編み

 

チョコチップの

いっぱい入った

クッキーを焼いて

 

ベタだけど

それくらいしか

思い当たらなくて

 

クリスマスカードを

しのばせて

 

ラッピングした

 

そして

終業式の日に

彼に渡したんだ

 

その時の

彼の笑顔が

不安なキモチを

拭ってくれた

 

帰宅すると

いもうとに驚かれた

 

"プレゼントは

貰わなかったの?"って

 

わたしは

充分満足してたから

気にしてなかったけど

 

いもうとは

途端に

機嫌が悪くなった

 

余った

チョコチップのクッキーを

頬張りながら

怒ってるので

 

可笑しくて

 

それに気づいて

かえって

プンプンしていた

 

夕方

玄関のチャイムが鳴り

出てみると

 

彼が

プレゼントした

マフラーをして

立っていた

 

わたしは

それを目にしただけで

うれしかった

 

彼の手から

キレイな水色の

封筒が手渡され

開けてみるよう

促される

 

中には

2枚のカードが入っている

 

1枚はクリスマスカード

もう1枚は

ルーベンスのポストカードだ

 

"今は連れて行けないけど

いつか

本物を観に行きたいね"

 

そう言うと

慌てて

彼は

行ってしまった

 

うれしくて

 

わたしは

しばらく

玄関で

ポストカードの

ルーベンスの絵を見ていた

 

その日から

このポストカードは

宝物になった

 

 

あの日から10年経ち

わたしの住む街に

見慣れた文字の

ポストカードが届いた

 

6月に

彼は結婚するという

 

良かった

ただ

素直にそう思った

 

カードの下に

目をやると

 

結びに

"ありがとう"って

記されていた

 

大好きだった

彼の笑顔が

浮かんだ

 

わたしこそ

"ありがとう"って

思っている

 

"あなたが

最初で最後の彼氏で

しあわせでした"

 

そんなキモチを込めて

 

宝物だった

あの日くれた

ルーベンスのポストカードに

 

"おめでとう!

末永くおしあわせに"

 

と記し

彼の下に返した