ルーベンス④

わたしの変化に

最初に気づいたのは

いもうとだった

 

今にも誰かに

話してしまいそうだから

必死に口止めした

 

"彼氏"ができてから

苦手なものが減っていった

 

例えば

駅前やバスの車内とか

人混みが苦手だったけど

彼と一緒だと

平気になった

 

以前だと

そういう場所にいる時は

ずっと

本を読み

音楽を聴いて

やり過ごしていたのに

 

その日を境に

人や建物の表情

空の色

風の匂い

その違いに

驚くほど気づく

 

少し顔を上げるだけで

私の世界に

奥行ができたみたいだ

 

あれほど

無機質に思えた毎日が

違って見えた

 

今考えると

恥ずかしいコトに

その歳まで

学校帰りの買食いなどを

したコトがなく

 

彼から

はじめて誘われた

宵祭り自体

行ったコトがなくて

どんな格好していけば良いか

 

ものすごく悩んで

制服で行こうとしたわたしを

いもうとに止められた

 

迎えに来た彼を

少し待たせて

浴衣で出かけた

 

緊張しすぎて

あまり覚えてないけど

彼がご馳走してくれたラムネは

今でも思い出す

 

季節が過ぎ

もう

街が師走のムードで

一層騒がしくなった頃

 

"クリスマスプレゼントは

何がいい?"って

聞かれたので

 

"フランダースの犬

ネロが観た

ベルギーの

アントウェルペン聖母大聖堂にある

ルーベンスの絵が見たい"と

 

到底

高校生が叶えられっこない

お願いを

イジワルに言ってみた

 

露骨に困り果てる彼に

私は慌てて

冗談だとお詫びした