のらねこ①

大学2年生の冬

ピアノのミスタッチがひどくて
少しイライラしていた

その頃のわたしは

只々
早く単位を取りたくて
コンパやいわゆる『同好会』活動とは
ほぼ無縁の生活を送っていた

同じゼミの子たちからは
『付き合いの悪い変わった子』という
イメージだったと思う

お家から離れて
はじめてづくしの毎日

自分のしたいコトができる
母や義父に気を遣わなくても済む
わたしだけの生活

他の子たちとは相当違うだろうけど

わたしにとって
それが
楽しい毎日だった

特に
大学のピアノを

毎日勝手に弾くことが
楽しくて

その様子を
別学部の准教授に見つかってしまい

叱られるかと思ったのに

予想を裏切り
逆にアドバイスをくださる

コンペディションにも誘ってくださる

楽しくて 楽しくて 楽しくて

益々

ピアノを弾く時間が多くなった

でも
その日は
なんだか指が動かなくて

数日前から身体がだるかったから
きっと風邪ひいちゃったんだなって
そのせいだって
思っていた

市販薬を飲んでしばらく経つと
またピアノがいつも通り弾けたから

違和感を気にしなくなった

その頃出会ったのが

『お月さん』

ピアノを弾いたあと
講堂の外れのベンチで休んでいる時に

あらわれる

白地に黒の斑
シュッとしていて
眼の色が「金色」で
まるでお月様みたいだから

『お月さん』って

呼んでいた

この子には
左前脚がなくて

だけど
ちっとも不自由さは感じられず

むしろ
動きが自然そのものだから

脚が無いことに気づかなかった

その佇まいがなんだかカッコよくて

ピアノの後に会えるのを楽しみにしていた